酒場〜META MALT'S〜

第二回 〜宿直とえだまめ〜







ズンッ・・・ズンッ・・・






手抜きマスター:
いらっしゃい。
ようこそ、「META MALT'S」へ。


手抜きマスター:
ここは、賑やかな街中の一角にひっそりと佇む静寂の空間……。
街の喧噪から離れたこの酒場には、今日も行き場のないおとこたちが安らぎを求め、ここに行き着く。


手抜きマスター:
俺の名は「手抜きマスター」。
Bar「META MALT'S」のマスターにして、
客人を深い思想の迷宮に誘う
“迷宮の案内人……”


手抜きマスター:
前書きを野垂れているうちに、
さっそく今日のお客さんが、この深い思想の迷宮に
迷い込んだようだ……。
今日のお客さんは、誰かな?




ガチャッ(SE)


あ・・・えっと・・・初めまして





手抜きマスター:


手抜きマスター:
誰だお前は。











アカペーン:
おはよう。
手抜きマスターくん。


手抜きマスター:
朝か。


アカペーン:
朝だよ。


手抜きマスター:
ふむ。


アカペーン:
うむ。




アカペーン:
あいさつにはあいさつで返せよ。


手抜きマスター:
おはよう。赤い人。


アカペーン:
俺の名はアカペーン。


手抜きマスター:
おはよう。アカペーンくん。


アカペーン:
ものすごく唐突だが、俺は今えだまめが喰いたい。


手抜きマスター:
なんだその意味深なフリは。


アカペーン:
どのへんが意味深なのかは知らんが、このBarに名付けられた「メタ・モルツ」という店名の「モルツ」っていうのは、ビールのことなんだろ。
ビールには枝豆だろ。


手抜きマスター:
朝からビール飲むんじゃねえよ。


アカペーン:
いや俺はビール飲まないけど。
でも店名からえだまめを連想したんだ。


手抜きマスター:
ビール飲まないのかよ。えだまめ喰うならビール飲めよ。
そしてこの店に金を落とせよ。
お冷やばっかり飲みやがって……


アカペーン:
今日のマスターは口が悪いな。


手抜きマスター:
すまん。最近ちょっと口が悪くなってきた。


アカペーン:
いや、いいよ。





手抜きマスター:
ところで、今日からこのBarにはメイドさんを置くことにした。


アカペーン:
はっ?


手抜きマスター:
紹介しよう。
Bar「META MALT'S」専属メイド、
えだまめモンスターさんだ。


えだまめモンスター:
は、はじめまして。
今日からこのお店で働くことになりました。
えだまめモンスターっていいます。よろしくお願いします・・・。


アカペーン:
はっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


アカペーン:
メイド!!!!!!!!!!!111!111111!1111!!1!11!1!1!11!!!!!


手抜きマスター:
なんだなんだ。


アカペーン:
ふぁー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


手抜きマスター:
落ち着け。


アカペーン:
こ、こ、こ、こ、これが落ち着いていられるか!!!!!
手抜きマスターくんの店に、メイドさんを置くだと!?!?!!?!?!?


手抜きマスター:
うるさい。その太字になるのをやめろ。
どもりすぎだろう。
汗かきすぎだろう。あとなんで微妙に楽しそうなんだ。
全体的にキモいな。


アカペーン:
いや楽しそうな感じではないが。


手抜きマスター:
いや喜んでるだろ。それ。


アカペーン:
そうか……。


手抜きマスター:
いきなり冷静(?)になるな。
妙に感情の起伏が激しくてキモいな。


えだまめモンスター:
あ・・・あの・・・。


アカペーン:
あっ……。
すみません。


手抜きマスター:
なんでいきなり謝るんだ。スーパーコミュ障シャイボーイか。
メイドさんの前でいきなりそんな叫ぶな。第一印象最悪だぞ。
全体的にキモいな。


アカペーン:
第一印象……。


手抜きマスター:
スーパーコミュ障シャイボーイって、自分で言っててなんだけど、語呂がいいな。


アカペーン:
いや全然良くない。
あとマスターに「キモい」と言われ続けたことに対する怒りは、俺の中で多少沸々と湧きあがっているぞ。


手抜きマスター:
多少ってなんだよ。


えだまめモンスター:
・・・・・あの・・・・・・・・・。


手抜きマスター:
あっ……。
ごめん。


アカペーン:
マスターも謝ってるじゃないか。
とりあえず気になることが山ほどあるが、
なんでこの酒場にメイドさんが?


手抜きマスター:
なんか、昨日の夜にきた。


えだまめモンスター:
昨日の夜にこの店に来ました。


アカペーン:
んっ?


手抜きマスター:
えだまめモンスターさんは、メイドさんとしての修行の為、
街角を彷徨いながら、彼女をメイドさんとして雇ってくれる
お店を探し回っていたそうだ。そしてこの店に来たのだ。


アカペーン:
ははあ……メイドさんが……
夜の街を……彷徨い歩き…………


えだまめモンスター:
そして・・・・・・・・・ここにいる・・・・・


手抜きマスター:
アカペーンくんが汗をかきながら「ははあ……メイドさんが……」とか言ってると、なんか全体的にキモいな。


アカペーン:
俺は今から今日一日のマスターの全発言を無視するぞ。
というか、メイドさんの修行をするなら、何もこんなへんぴなBarでなくてもよかったんじゃ?
もっと質のいいホテルやレストランの方が……


えだまめモンスター:
大きいお店は、怖くて入れなかったんです・・・。


アカペーン:
うーん……そうですか。
もっと、積極的になった方がいいですよ。


えだまめモンスター:
はい・・・。


手抜きマスター:
俺の店が街角に向けて放っているアットホームな雰囲気が、
えだまめモンスターくんに安心感を与えたのだ。
あと、ニートの癖にメイドさんにいっちょまえに説教をたれているアカペーンくんの姿は、もはやキモいと言わざるを得ないだろう。


アカペーン:
そういえば、えだまめモンスターって名前なの?
……えだまめ、モンスター、とは?


えだまめモンスター:
はい。えだまめモンスターっていいます。
・・・変な名前ですか・・・・?


アカペーン:
い、いや、そういうわけじゃないけど。
えだまめで、モンスターというのはその、何だろうと思って……。


えだまめモンスター:
うっ・・・・・。
その、わたしは人間じゃないんです・・・・。


アカペーン:
あっ…………なんか、ごめん。
大丈夫、俺も人間じゃないから……(?)。


手抜きマスター:
棒状の形態をとっている棒人間のアカペーンくんは、やはりキモい。
というか今更だが、なんでこいつは棒人間なんだ。


アカペーン:
「えだまめ」というのは?


えだまめモンスター:
腕がえだまめエネルギーで出来ているんです。


アカペーン:
えだまめエネルギーとは?


えだまめモンスター:
「ずんだ」です。


アカペーン:
「ずんだ」とは?


手抜きマスター:
「ずんだ」はえだまめをすりつぶしたペーストのことだ。
そんなことも知らないアカペーンくんはキモい。


手抜きマスター:
そして、えだまめモンスターくんは、手からえだまめを
無限に生産し続ける能力を持っているんだ。


アカペーン:
マジで!?!?!?!!?!?!?!!?!?!?!


手抜きマスター:
いきなり激怒するな。キモいぞ。
というか、俺の発言は全部無視するんじゃなかったのか。


アカペーン:
いやマスターの発言に反応してしまった瞬間、
今日一日マスターが俺にあびせた「キモい」という中傷に対して、俺がため込んでいた怒りのエネルギーが解き放たれたんだ。


手抜きマスター:
怒ってるわりには、めっちゃ冷静だな。


アカペーン:
俺は怒ったポーーーーーーーーーー!!!!!!!!


えだまめモンスター:
ひっ!!!!
ご・・・ごめんなさい・・・・・・。


アカペーン:
あっ!

いや……その……
ごめんなさい……。


手抜きマスター:


アカペーン:


手抜きマスター:
お前はどうしようもないな。
なんだよ「俺は怒ったポーーーーーーーーーー!!!!!!!!」って。



手抜きマスター:
アカペーンは深い悲しみに包まれているな。
えだまめモンスターくん、君の特技をあいつに見せてやってくれ。


えだまめモンスター:
グスッ・・・・・・・・
は、はい・・・・・・・・・。


手抜きマスター:
もう泣かなくても大丈夫だぞ。


えだまめモンスター:
はい。









ゴオオオオオオオ・・・・・・






ジャーーーーーーン


アカペーン:
枝豆豆腐だな……。


手抜きマスター:
えだまめモンスターくんは、自身の持つえだまめエネルギーによって、
枝豆を使った料理を自在に錬成することができるのだ。
これは錬金術だ。


アカペーン:
はあ…………
錬金術…………


えだまめモンスター:
この力を応用すると、
えだまめ以外のものも多少は錬成できるようになります。


アカペーン:
何気に凄いな…………。


手抜きマスター:
テンション低いな。


アカペーン:
俺は今、深い悲しみに包まれているからな……。


手抜きマスター:
そうか。まあそうだろうな。
やさしさに包まれたなら……


えだまめモンスター:
おいしいえだまめ料理を、たくさん作りたいです。


アカペーン:
やさしさが…………欲しい…………。


手抜きマスター:
甘えるな。


えだまめモンスター:
あの・・・さっきはごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって。
この枝豆豆腐を、もしよかったら食べて下さい。


アカペーン:
あっ……。
ありがとうございます。


手抜きマスター:
やさしさか。







手抜きマスター:
これからえだまめモンスターくんには、宿直で働いて貰う。


アカペーン:
宿直とは。


手抜きマスター:
言葉を換えると、24時間勤務だな。


アカペーン:
24時間!


手抜きマスター:
勿論、休みはとってくれ。寝床も、部屋を一つ用意してある。
部屋では好きにしてくれていいからね。


えだまめモンスター:
ありがとうございます。


アカペーン:
マスター、彼女の待遇はよくさせてあげてくれ。


手抜きマスター:
さっきからお前は何に驚いているんだ。
枝豆豆腐を食べてから元気取り戻しやがって。


アカペーン:
元気取り戻したら悪いのか。


えだまめモンスター:
あの・・・・
これから、よろしくお願いします。


手抜きマスター:
うむ。よろしく。


アカペーン:
マスター、おかわり。


手抜きマスター:
何のおかわりだ。


アカペーン:
水のおかわりな。


手抜きマスター:
もうテーブルに置いてある。


アカペーン:
な、(ぇ

ありがとよ。




〜おわり〜


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