小説:Dawn(夜明け) - パイロット版
プロット段階の作品で、今はまだ文章のみです
これに挿絵を加えて、文章を組み直した後に完成としたいです




Dawn(夜明け) - パイロット版




この街は呪われた街だった


ある年のある一日から、街中に障気が立ちこめ、
地は荒れ果て、
かつて住んでいた人間たちはみな逃げるようにしてこの街を去っていった


障気に覆われたこの街に残されていたのは、
逃げる手段のない老人たちと、
行き場のない動物たちだけだった


この呪われた街に、
ある時、三人の女たちが現れた



三人の女は、自らを「レイヴン・シスターズ(礼文姉妹)」と名乗った

女たちは街に閉ざされた老人たちに語りかけた。
私達には、この呪われた街を
救うことが出来ると、
この街を真なる幸福に包まれた楽園にすることができると、
そう宣言した




この三姉妹の長女は、「レイヴン・ロクサーヌ」といった。
彼女は老人たちには聞き取ることの出来ない、
どこか異邦の世界の言語を喋る女であり、
彼女の言葉にはその意味を老人たちに正しく伝える
通訳が必要だった。




その通訳を行ったのが、
三姉妹の末女の「レイヴン・マーブル」だった。
彼女には長女の言葉を老人たちに正しく伝え、
長女が行おうとしている目的を老人たちが分かるようにする
使命を持っていた。




三姉妹の二女は、「レイヴン・ドーパミリア」といった。
彼女の持っていた瞳はいつもどこか妖しい煌めきをはらんでいて、
その瞳の煌めきは、全ての動物の本能的な行動欲求を刺激する
不思議な力を持っていた。


長女はまず、街に住んでいた老人と動物たちの手に触れ、
彼らにこの呪われた街で生活をする為の「力」を与えた。
長女の手に触れた者は、たちまち全身に力がみなぎるようになり、
それまで街を覆っていた障気のことも、この街の行く末を憂う憂鬱な気持ちも、
少しも気にならなくなってしまった。
長女の手に触れた者たちには、今からなら何でもやり直していけると、
これから何十年も何百年もこの街で生きていくことができると、
そんな底抜けに前向きな気持ちが身体の中からほとばしってくるのだった。


そして、三姉妹は老人たちの手を借りて、
この街と外界とを繋ぐ境界線を完全に閉ざした。


三姉妹は老人に命令を下すようになり、
力を与えられた老人もそれに従うようになった。
レイヴン・ドーパミリアの瞳の煌めきは、老人たちを駆り立て、
老人たちはドーパミリアの意のままに動くようになった。


老人たちは荒れた大地を耕し、川から水をひき、作物を植え、
自分たちが食べていけるだけの農業を始めた。
かつてこの街に住んでいた人間たちが遺していった食料が
街中に溢れていたため、食料には恵まれていた。
街を覆う障気が食料を汚染させていたが、
今の老人たちにはそんなことは少しも気にならなかった。


レイヴン・ロクサーヌがその手に触れた作物は、
作物をみずみずしい美味なるものへと変化させた。
ロクサーヌはそれを老人たちに与えたので、
老人たちはロクサーヌとその姉妹をこの街に現れた真なる救世主であるとし、
特にロクサーヌに対する信仰は並ならぬものへと変わっていった。


やがて一年が過ぎ、二年が過ぎ、三年が過ぎた。
老人たちの農業は安定した生産を続け、
その生活も豊かなものになった。


老人たちのレイヴン姉妹への信仰は、
いつしかロクサーヌを頂点とする一神教の宗教へと変貌していった。
レイヴン・マーブルは老人たちを指揮し、
街にロクサーヌを信仰するための教会を造らせた。
老人たちの住む家にはロクサーヌを象ったイコンがおかれ、
それまでの街に遺されていた他の全ての宗教は消滅した。


老人と街に住んでいた動物たちは、増えもしないが、減りもしなかった。
全てがみなレイヴン姉妹が初めてこの街に現れた時のまま、
老人たちの生活だけが豊かになっていった。


やがて年月が過ぎて行くにつれ、老人たちの身体の老いはそれでもなお進んでいったが、
どれだけ身体が朽ち果てようとも、老人たちの身体は動き続けた。
ロクサーヌに力を与えられた老人たちは、いつしか死ぬことを忘れ、
永久に農業を行い、永久にロクサーヌを信仰するだけの存在になっていた。
外界の人間の眼からみたこの街の姿は、
死ぬことを忘れた老人たちの織りなす、奇妙な「死人の楽園」に映ったであろう。


*********


レイヴン姉妹が築きあげたこの「死人の楽園」の姿は、
それから何年も形を変えずにそのまま続いていった。
やがて年月が過ぎた頃、
外界からある一人の訪問者が封鎖された境界線をこじ開け、
この街に訪れてきた。




彼女は、その名を「ロータス」といった。彼女は“悪魔祓い”の少女だった。
この世界にはびこる邪悪なる存在を排除し、
人間と動物たちの尊厳に満ちた世界を取り戻すことが、彼女の生きる使命だった。


彼女は外界でこの街の「死人の楽園」の姿を噂に聞き、
この街を「死人の楽園」に変えた、ロクサーヌ率いるレイヴン姉妹が、
彼女の嫌悪する悪魔たちの姿であることを確信した。
彼女は、悪魔たちのエゴイズムでこの街を「死人の楽園」へと変貌させた
レイヴン姉妹を排除するために、
レイヴン・ロクサーヌを殺すべく外界からこの街へ訪れたのだった。


老人たちの眼からみた彼女、ロータスの姿は、
安定した彼らの世界に突然侵入してきた、危険なる異界の物質、
均衡の破壊者そのものだった。
老人たちはロータスを排除するべく、彼女に襲いかかった。


しかし、ロータスの持っていた十字架を象るロザリオを老人に振りかざすと、
老人たちはたちまち身体の生気を失い、
何十年も動きつづけていた不死の身体は突然もとある状態へと復元された。
ロータスに襲いかかった老人たちは死に絶え、
ついにこの街にはレイヴン三姉妹とロータスしかいなくなってしまった。


ロータスはレイヴン・ロクサーヌの居場所を探し、ついにロクサーヌの前に現れた。
ロクサーヌは、この街を「呪われた街」へと変貌させた全ての根源、
全ての始まりとなった建家の深部で、一人静かに眠っていた。
ロータスは、彼女に話しかけた。


「あなたがレイヴン・ロクサーヌね」

「○×△○□」


「あなたは一体、「死人の楽園」となったこの街で、一体何をしようとしていたの?
 この街の人間を不死なる存在として行使して、
 趣味の悪い宗教をつくりあげて、さも自分たちが選ばれた存在であるかのように、
 閉ざされた世界で神様ごっこをすることに、一体何の意味があったの?」

「○△□×△□、□○×○△□○×△△□。」


「あなた達は、この街の自然を、この世界の自然を、悪魔の力を加えてねじ曲げてしまった。
 やがて終わりのくる全ての自然を、あるべき形から変貌させ、終わりないものにしてしまった。
 こんなのは、全ての自然に対する冒涜よ!全ての自然はあるべき姿のまま、
 全てを天に任せてその終わりと自浄を待つべきだった。あなた達は、それを……人間の弱さにつけこみ、
 人間が犯した失敗を永遠のものへと変えてしまったんだわ!
 こんなことは、今すぐにやめるべきよ。死すべき生命は全ての死を待ち、
 自然のみが救うことのできる人間の業を、時間の流れと共に見守っていくべきなのよ!」

「○×△□○×、×□△○□××□○○△□□△○×△□○×△○×○?
 ○○△□×□○△○△△□□○×、○○△□×□△△□○×○。
 ○□△○△×△○□○△○□×△○□×。
 □△×△○□○×△○□△○△□×△○×○△。
 △□○×○×△○××□○?○△□×△、
 ×○□○□○△○□○×。」

「何言ってんだか分かんないわよっ!」


ロータスは、ロクサーヌに近づき、ロクサーヌの頭にロザリオを突き刺そうとした。
ロータスの腕がロクサーヌに触れようとしたとき、
突然、ロータスは血を吐いて倒れた。
ロータスの皮膚はみるみる青白くなっていき、内蔵はただれ、
全身を支える骨がボキボキと折れていった。


「かっ………」


ロータスは、ロクサーヌの目の前で死んだ。
ロクサーヌとその姉妹は、ロータスが殺した老人たちと、
全身が溶けるように崩れたロータスの墓を作り、彼女らを弔った。


「○×△、□○△○×○△。」
「私たちの築いた楽園は朽ち果て、幸福は終末を迎えた。
 人間たちの業を真の意味で浄化するには、私たち三人の力だけでは足りなかったということね。
 私には、人間が人間の業を本当に理解するようになるまでには、
 まだ果てしない時間がかかるように思えるけど……。
 まあ、人間が何度同じ過ちを繰り返していようと、それが人間という生物の宿命であるのなら、それもかまわないけど、
 私たちは私たちに託された使命を、残された時間の中で永遠に続けていくだけよ。」


それからレイヴン姉妹たちは、誰もいなくなった世界の中で、ただ三人だけで永遠とも思えるような時間を過ごした。
やがて、放射性物質が幾度の半減期を迎え、人体に影響を及ぼすことのなくなった10万年後の世界で、
レイヴン姉妹たちは、静かにこの街から姿を消していった。




Dawn(夜明け) …… 終わり



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